愛の降る夜

 審神者は悩んでいた。恋仲である山姥切長義との夜の営みについてだ。一度は彼と結ばれたものの、それ以降まったく進展がないのだ。
 もともと審神者は淡泊で性欲は薄い方だし、問題はない。だが、長義は違うようだった。ひとりで処理する姿を見かけたときがあるし、時折欲を孕んだ目で見られることもある。それなのに彼は初めての夜以降、審神者に触れようとはしない。
(……私、なにか粗相をしてしまったのでしょうか?)
 よほど浮かない顔をしていたのだろうか。加州清光が「どうしたの?」と声をかけてきたので、悩みを打ち明けることにした。
「そんなことかあ。もっと深刻なことだと思ったよ」
 話を聞き、加州は呆れたように言った。
「ここは主から誘っちゃえばいいんじゃない? それで駄目だったら、そのときはまた考えればいいじゃん?」
「そ、そうですね。ですが、どうやって誘えばいいのか……」
 胸の前で組んだ手をもじもじさせながら審神者がそう言えば、加州はうーんと首を傾げたあと何か思いついたらしく、ぽん! と手を打った。
「もういっそ、主が押し倒しちゃえばいいんだよ!」
「ええっ!? でも、それはちょっと恥ずかしすぎます……!」
 審神者が慌ててそう返せば、加州は「大丈夫だって!」と根拠のない励ましの言葉を口にした。
「主みたいな真面目で奥手な子から誘われたら、きっと嬉しいと思うよ」
 自信持ってよ、と肩を優しく叩かれる。
 そんな風に言われてしまえば断れない。審神者はこくりと頷くと、拳をぎゅっと握りしめて答えた。
「わかりました。……今夜にでも実行してみようと思います」
「うんうん、頑張って!」
 応援してくれる加州の笑顔が眩しい。審神者は力強く「はい!」と答えてから、執務室へと戻っていった。

***

 その夜。審神者が長義の部屋を訪ねると、彼はすでに寝間着姿で布団の上に座っていた。「どうかしたのかな」と尋ねてくる声は優しいが、どこか緊張の色が見える気がするのは気のせいだろうか。視線をそらす長義に少しの寂しさを感じながら、審神者は彼の側ににじり寄って、それから思い切って抱きついた。
「!」
 驚いたように彼が息を呑む気配が伝わってくる。審神者はぎゅっと強く彼に抱きついて、それから勢いのまま押し倒してみた。
 どさりと背中が布団に沈む。その上に覆い被されば、長義は戸惑ったように瞬きをした。彼が何か言おうと口を開こうとするので、塞ぐように唇を重ねる。恥ずかしさはとうに限界を突破済みだ。だが、ここまで来てしまったら戻ることはできず、先に進むしかない。思い切って彼の開いた唇の合間から舌を滑り込ませると、長義はびくりと体を震わせた。
「……っ!」
 審神者の体を押し返そうとしていた彼の手が、逆に審神者の体を強く抱き寄せる。隙間なく密着し、そのまま口づけを交わし合う。舌を絡め合い、唾液を交換する。長義を押し倒していたはずが、気がつけば審神者が組み敷かれていて、貪るようにキスをされていた。
「ん、んぅ……っ」
「は……、ん……っ」
 ちゅ、と音を立ててようやく唇が離れる。長義は荒くなった呼吸を整えながら、審神者の頬を指先でなぞった。
「俺は我慢していたんだよ? 初めての夜、きみが辛そうだったから、まだ俺たちには早いのだろうと」
 だから、次の日から触れることができなかった。彼はそう囁くと、審神者の唇に優しく口づけを落とした。
「きみから求められるなんて、嬉しくてどうにかなりそうだ」
 長義は熱のこもった瞳で審神者を見つめた。
「俺がどれだけきみを想っているか、教えてあげよう」

 


一度作ってみたかった折本(A4サイズ/8p)を作ってみました。ノンブルがぎりぎりになってしまいました…。
完全な自己満足ですが、よかったらどうぞ。PDFファイルです。
>>ダウンロード(341kb)

↓こんな感じです。
chogisani_ainofuruyoru