※こちらで名前変換ができます。
遠くから祭り囃子の音がする。
理子はお母さんからもらったお小遣いが入った財布をポシェットに入れて、若草色のリボンが巻かれたお気に入りのカンカン帽をかぶると、サンダルを足につっかけて外に出た。玄関に鍵をかけることは忘れない。
今日は町内のお祭りの日。近所の神社に出ている屋台でいっしょに買い物をしよう、と幼なじみの長義くんと約束している。待ち合わせの時間まであと少し。理子はいそいそと集合場所に向かった。
「ごめんね、長義くん。待った?」
「いや、全然」
電信柱の横に立っている長義くんに声をかける。キャップを被っているとはいえ、夏の強い日差しが降り注ぐなかにもかかわらず、彼は涼しげな顔をしていた。
「じゃあ行こうか」
「うん。売り切れになっちゃったら悲しいもんね」
そういうわけで、さっそく神社に向かうことになった。
目的地に近づくに連れて、人が増え、にぎやかになっていく。笛の音に太鼓の音。祭り囃子が近づくと、道にぽつりと屋台が見えた。ソースのにおいが鼻をくすぐる。空腹を訴えた理子の腹が恥ずかしそうに鳴った。それをしっかりと耳にした長義くんがくすりと笑みをこぼす。
「お腹すいたな。理子はなに食べたい?」
「わたしはね、たこ焼きが食べたいな!」
「いいにおいするしね。それから?」
「えーっとね、フランクフルトでしょ、お好み焼き。チョコバナナにりんご飴にタピオカドリンク……それから、かき氷! 実は屋台で食べたことがないんだ」
指を折り曲げながら、食べたいメニューを口にする。本当は他にもいろいろあったけれど、途中で言うのはやめた。呆れられてしまうと思ったからだ。長義くんはおかしそうに笑った。
「あはは、理子は欲ばりだな。そんなに食べられないだろう」
「だよね~。お金も足りないと思うし……」
「食べもの以外の屋台だって見たいだろう?」
首をかしげて尋ねる長義くんに力強く頷く。
「うん! ヨーヨーつりとかもやりたいな」
「じゃあ絶対外せないものを考えよう」
話し合いの結果、まずはフランクフルトを買うことにした。辛いものが苦手な理子はケチャップだけ、平気な長義くんはケチャップとマスタードをつけたものを手にして、お行儀が悪いと知りながらも歩きながら食べる。ジューシーなソーセージはかみつくとぱりっと裂けて油が飛んだ。とても熱い。ふうふうと冷ましながら「熱いね」と言い合いながら口へと運んだ。
次に向かったのは二軒先でずっといい匂いを漂わせているたこ焼きの屋台だ。二人でお金を出し、ちょうど近くにあったベンチに座って、分け合った。
「こっちも熱いから気をつけて」
長義くんの注意に頷いたものの、小ぶりのたこ焼きだったので一口で食べた。だが案の定熱くて、涙目になりながら一生懸命に口をもぐもぐさせる。「だから言ったのに」と長義くんは呆れた顔をしている。
「たこ、小さかったね」
「屋台のたこ焼きに期待してはいけないよ。あ、理子。動かないで」
「?」
手が伸び、親指の腹が理子の口元を拭う。その指を長義くんはぺろりと舐めた。理子がぽかんとしていると「ソースがついてたんだ」と彼は普段と同じ様子で答えた。
しばらく屋台を見てまわり、ヨーヨー釣り屋を発見して遊んだ。理子は片手に水玉模様がかわいい緑色と黄緑色の水風船を二つ持ち、ぽんぽんと弾ませた。緑色はものの見事に失敗した理子がお店の人におまけしてもらって選んだもので、黄緑色は二個釣り上げた長義くんからもらったものだ。長義くんは紺色を片手にぶら下げている。
「あっ、ちょっと待っててね」
甘いにおいに誘われて、小走りでその屋台に向かった。買ったものはチョコバナナ一本。バナナに茶色いチョコレートがとろりとかかり、カラフルなチョコスプレーが振りかけられていた。
「お待たせ! 長義くん、これ半分あげる!」
「理子がぜんぶ食べればいいのに」
「ヨーヨーのお礼だよ。あとね、最後にかき氷も食べたいなって思ってるから、いっしょに食べてくれるとうれしいな」
理子とチョコバナナを交互に見て、長義くんは少しだけ困ったような顔をした。なにか考える素振りをした後、理子が差し出すチョコバナナに顔を寄せて一口かじる。そうして、「あまいね」と言った。
「あまいもの、きらいだった?」
「そんなことないよ。ただ……いや、なんでもない。上の方、食べなくていいのか」
「うん。お礼だもん」
あっという間に食べ終え、見世物を眺めつつ、かき氷を買う。今日は特別に暑いので、氷は見た目にも涼しく感じられた。理子は人のいない木陰を見つけると長義くんの手を引いて、地面から顔をのぞかせる太い根の上に座った。
頭の上を見上げると葉っぱの合間からきらきらと太陽の光が輝いて見えた。「木漏れ日がきれいだな」と同じように並んで見ていた長義くんがぽつりとつぶやく。「そうだね」と答えながら、冷たい氷をスプーンですくって食べる。
「つめたい!」
頭がキーンとして、思わずこめかみを押さえる。
「ゆっくり食べるといいよ」
「うん、そうするね。あ、長義くんはブルーハワイを頼んでたよね。ブルーハワイってどんな味なの?」
青いシロップがかかった見るからに涼しそうなかき氷を見て、首をかしげる。
「うーん、なんだろうな。ただあまいだけな気もする。ラムネかな。食べてみる?」
「それじゃあ、わたしのもどうぞ」
緑色のシロップがかかった自分のかき氷を差し出しつつ、スプーンで一口分けてもらう。
「よくわかんないね。わたしのメロン味なはずだけど、同じ味のような気がしちゃうね」
「色が違うだけなのかもな」
理子が持つ容器から氷をすくって食べた長義くんが微妙な顔をして答える。
「着色料がすごいって聞いたことある。光忠兄さんに注意されるかな。理子の口もちょっと緑色になっていたよ」
「え、ほんと?」
自分では見えないが、舌をべーっと出してみる。
「やっぱり、すごく緑だ。あと青も混ざってる。俺もすごく青くなってそうだな」
「見せて見せて!」
頼んでみると、仕方ないなあという表情で舌を見せてくれる。長義くんの言うとおり、彼の舌は真っ青になっていた。
「わっ、ほんとだ! すごく青いよ。……これ、すぐに消えるかな?」
「消えるさ」
どう食べたら色がつかないか話しながら、カップの中身を空にする。結論は「氷を溶かして飲み干せばいい」となったけれど、それではかき氷の意味がないなと理子は思った。
太陽が空の真ん中から西に傾き始めた頃、屋台をたっぷり楽しんだ理子は長義くんといっしょに帰り道を歩いた。
「ねえねえ、長義くん。まだ舌、緑色?」
緑の舌なんて化け物みたいで嫌なので、心配になって様子を聞く。ちろりと出した舌を見て、長義くんは小さく笑った。
「まだ緑。そんなに心配しなくたって、寝る前にきちんと歯を磨けば大丈夫だよ」
「うん。そうだよね」
理子は車道側を歩く長義くんの口元をじっと見つめてみた。彼は「仕方ないな」と諦めたようにつぶやき、ほらと舌を出した。
「満足かな」
彼のそれは神社で見たときと変わらず青かった。きっと自分も同じなのだろう。そう思うと理子はなぜか不思議とうれしくなって、長義くんの少しひんやりとした手をとって自分の手とつないだ。
Privatterより再録。初出:2021/07/12
***
2200年代のかき氷のシロップには合成着色料使われてないんじゃない? と思ったので、現パロです。なぜか小学生(高学年のつもり…)になりました。
■以下の「幼馴染」設定を使用しました。過去話ということで…。
(とうらぶ乙女ゲー学校編 https://shindanmaker.com/916587の診断結果より)
【攻略対象】
幼馴染:山姥切長義
転校生:南泉一文字
隣席の男子:蜂須賀虎徹
憧れの先輩:膝丸
義理の兄弟:鯰尾藤四郎
喫茶店のバイト:一期一振
【隠しキャラ】
先生:千子村正
喫茶店の店長:鶯丸