ふらふらとして足元がおぼつかない。
今日は朝からずっと書類仕事に追われていた。集中力が切れて休憩しようと筆を置いた途端にこれである。
審神者は椅子から立ち上がって壁伝いに歩いた。壁に寄りかかりながら執務室を出る。向かう先は自室だ。とにかく休みたかった。
よろめきながらもなんとか辿り着いた部屋に入ると、そのまま畳の上に倒れこんだ。布団を敷く元気はない。
目を閉じて息をつく。しばらくそのままじっとしていると、入り口の柱がノックされた。返事ができず、視線だけそちらに向けた。
ゆっくりと開かれた襖の間から顔を見せたのは長義だった。彼は部屋の中をぐるりと見渡してから、畳の上に倒れ込む審神者に歩み寄ってきた。
「熱があるのかな」
ぼんやりとしたまま彼を見上げれば、そっと頬に触れてくる。冷たい手だった。心地よい。審神者はすり寄るようにしてその手に甘えた。
彼は審神者の様子を見てから足早に部屋を出ていき、すぐに戻ってきた。手には小さな箱を持っている。救急箱だ。
「風邪でも引いたのかな?」
審神者はゆるりと首を横に振った。ただ疲れていただけだ。そう告げれば、長義は納得したように一つ肯き、救急箱から小瓶を取り出した。
「これを飲んで寝ると良い。栄養剤だよ」
審神者は緩慢とした動作で体を起こすと、その小瓶を受け取った。蓋を開けてにおいを嗅ぐと甘ったるい香りがした。どろりとした液体を口に含む。味は悪くない。飲み下せば喉に絡みつく感覚があり、もう一度飲むのは嫌だなと思う。審神者が顔をしかめていると、「少し待っていて」と長義が押入れから布団を出してきた。
彼はてきぱきと敷布団を畳の上に置いて、その上に掛け布団をかぶせる。
「きみには休養が必要だ」
そう言って、審神者の体を横抱きにして持ち上げると、そのまま布団まで運んでくれた。ふかふかのお日様のような匂いのする布団に降ろされて、ぽんぽんと胸元あたりをたたかれた。
「眠くなるまではそばにいるから安心して眠るといい」
長義が額に軽く口づけを落とす。審神者は小さく頷いて、再び目を閉じた。長義の手が髪を撫ぜてくれる感触が心地いい。程なくして穏やかな眠りが訪れた。
審神者は夢を見た。とても幸せな夢だった。