長義さにつめ #2 - 6/6

 厨番の気まぐれサラダ

 本日の夕飯のメニューは洋食らしい。居間に貼られた献立表には見慣れない言葉が踊っていた。コンソメスープ・ロワイヤルと本丸産野菜入り、鮭のムニエル~柑橘ソースを添えて、厨番の気まぐれサラダ、ライスorバゲット、りんごのタルト――となかなかに豪勢だ。
 この献立を見る感じ、今日の料理長は燭台切光忠だろうか。そんなことを考えながら、隣で献立表を眺める審神者を見る。「ロワイヤルってなんですかね?」と楽しげに首をかしげる彼女に、長義は答えた。
「確か洋風の卵豆腐のようなものだったと思うよ。クルトンみたいな感じかな」
「あー! なんとなくわかった気がします。長義さんは物知りですね」
 審神者が嬉しそうに笑う。その笑顔を見て、長義もまた口許をほころばせた。

 夕食の時間がやってきた。長義は審神者と連れ立って、食堂へと向かう。レストランではないので、メイン料理もオードブルもデザートも厨番によって一度にお盆に載せられた。
「飯とぱん、どっちにするんだ……にゃ?」
 厨番の一人である南泉に尋ねられる。審神者と同じバゲットを頼むと、カットされたフランスパンが二切れ皿に載せられて出てきた。香ばしい匂いが食欲を刺激する。
「おいしそうですね」
「そうだね」
 にこにこ微笑む彼女とともに席につく。「いただきます」と手を合わせる審神者の向かい側で、長義は配膳された一つの皿をじっと見つめていた。
(これは一体なんだ?)
 厨番の気まぐれサラダと名付けられたそれは、一見すると普通のサラダのように見える。だが、明らかに盛りすぎていた。エビの姿が見えるので海鮮サラダかと思えば、近くに鶏肉のようなものも見えるし、つぶされたゆで卵やグレープフルーツらしき果物が混ざっていて統一性がまったくないのだ。
 見た目だけならまだいい。問題は、これがどう見ても一人分ではないことだ。器がどんぶりなのである。見えない底には何が入っているのか。食前のあいさつを終えて、恐る恐る箸で確認して見れば、サラダに定番の野菜のほかに、ハム、刻み海苔、海藻類に豆類、ちりめんじゃこなどが混ぜ込まれているではないか。
(俺は何を試されているんだろう)
 サラダにかけるように用意されたフレンチドレッシングからはほのかにレモンが香り、刻んだパセリが散らしてある。和風ドレッシングの方には青じそが入っていた。どちらも小鉢に入っており、好みでかけろということらしい。どちらもさっぱりした味わいになりそうであるが、果たして……。
 とりあえず食べてみようと思い至ったところで、長義たちが座っている席に鶴丸がやってきた。
「よう、今日の献立はどうだい?」
「鶴丸さんが今日の料理長さんですか? すごく凝ったメニューですよね。びっくりしました。ありがとうございます」
「俺が作ったのは気まぐれサラダだけだぜ」と料理長は笑って答えた。そんな彼にすかさず長義は尋ねる。
「ところでこのサラダだが、まったく方向性が見えないのだけれど。ちょっと気まぐれすぎじゃないかな?」
 すると、鶴丸は「すまない!」とまったく申し訳なさそうな様子で謝ってきた。
「今日は冷蔵庫や食料庫の整理日でな、賞味期限なんかが切れそうなのを全部サラダに入れてみたんだ! どうだ、驚いたか?」
 満足げな表情を浮かべる鶴丸を見て、長義は呆れながら思った。なるほど、確かにそれは驚きかもしれない、と。

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