姥さにつめ #2 - 7/11

抱き枕
 

 深夜。自室でひとり、明日提出の書類を仕上げていると、障子の外に人の気配を感じた。こんな時間に誰だろうか、と思いながら、審神者は手元の端末に視線を落として時刻を確認する。
 トン、と小さく音がした。障子の桟を叩いた音だ。
 顔を上げて、障子を見た。再び、トン、という音が鳴る。誰かが開けろと言っているようだ。
 首を傾げながら立ち上がる。そっと障子を開ければ、そこには内番服姿の山姥切国広が立っていた。なぜか仏頂面だ。
「どうしました?」
 問えば、彼は何か言いたげな表情を浮かべながら、審神者を見つめ返した。その瞳がわずかに揺れている。こんなことが前にもあったなと、ふと思う。返事を待つが、彼は何も言わない。ただじっと審神者を見つめていた。そんな山姥切を見て、苦笑しながら手招きをする。彼は促されるまま、部屋に入ってきた。後ろ手に閉められた戸が、パタンと軽い音を立てる。
 審神者は文机の前の座布団を指し示した。そこに腰を下ろすように勧めれば、彼は素直に従う。
 彼が口を開くまで待とうと思ったが、山姥切はなかなか口を開かない。それどころか、審神者と目を合わせようとしない。困ったように笑いながら、審神者は彼に向かって手を伸ばし、その頭を撫でた。途端、山姥切はびくりと体を震わせた。
「すみません。嫌でしたか」
「……いや、違う。驚いただけだ」
 そう言ってくるりと背を向けると、今度は頭を抱え込むように肩にかけていた布を深く被った。まるで隠れようとしているみたいだ。その様子を見て、眉尻を下げる。
「今日はどうしたんですか? また眠れませんか?」
 問いかけに、山姥切は小さく首を振る。
 ならばなぜ、と審神者は思った。不思議に思いながらも、それ以上問い詰めるようなことはせず、少しの間、彼の様子を見守ることにした。
 やがて、ぽつりとつぶやくような声で、「夢を見るんだ」と彼は言った。
「怖い夢ですか?」
「ああ」
「それはまた……」
 一体どういう悪夢なのだろうと考えていると、不意に手をつかまれた。驚いてそちらを見ると、いつの間にか、すぐそばにいた山姥切に抱き寄せられる。その手がわずかに震えていることに気づき、されるがまま彼を抱きしめた。
 しばらくして落ち着くと、山姥切は審神者の肩に額を押しつけるようにして、小さな声で呟く。
「……主、もう寝よう」
「山姥切くんもここで寝るんですか? 今日は枕、持ってきていないじゃないですか」
「……あんたが枕になるから、いいんだ」
 ひどく勝手な言い分に審神者は思わず笑ってしまった。

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