広い屋敷の中にはいくつか洋室が存在する。そのうちの一部屋に大きなソファがあった。審神者はそのゆったりとしたソファに身を沈め、読書するのが好きだった。
しかし、最近になってそこに一人の青年の姿が加わるようになった。彼は本を読む審神者の側に寄り添うように静かに座り、話しかけるでもなく、ただじっとしていた。
切りのいいところまで読み終えたところで、本を閉じて顔を上げると視線を感じた。隣に座っている彼からのものだ。
「……何か用ですか?」
問いかけるが返事はない。いつものことなので気にせずに再び本の続きを読み始めることにしたのだが、彼が動いたことで中断せざるを得なかった。
「どうかしましたか?」
彼の方を見ると、無言のまま手を引かれて抱き寄せられた。抵抗せずに彼に体を預けていると、肩口に頭をすり寄せられる感触がした。
「……甘えたいんですか?」
問いかけてもやはり返事はなかった。代わりに腕の力が強くなった気がした。
「……」
彼は何も言わない。だが、その行動から何をしてほしいのかは何となく伝わってきた。だから私は彼の背中にそっと手を置いた。
「これでいいんですかね?」
すると今度は頭を撫でてほしいというようにぐりぐりと押しつけられる。要望通りに軽く手で髪をすくようにしてやるとその手に頬ずりされた。猫みたいだと思った。
「……あなたは意外と甘えん坊さんなんですね」
「嫌か?」
「いえ、そんなことはありませんが……」
「なら、このままでいさせてくれ」
「……少しだけでしたら。そろそろ夕食の準備の手伝いに行こうと思っていますので」
そう伝えると彼は渋々といった様子で離れた。表情は不満げで、まるで拗ねているように見える。
その様子がおかしくて思わず笑みをこぼすと、彼はますます不機嫌になったようだった。