姥さにつめ #3 - 4/7

「雨音/シャワー」

 

 外は土砂降りの雨。ざあざあと激しい音をたてている。私は窓ガラス越しに見える空を見上げ、溜め息をついた。
 現世にある政府施設での用事を終えた帰り道、急に降り出した大雨に足止めを喰らう羽目になってしまった。交通も麻痺しているし、何よりこの豪雨の中を歩いて帰るのは困難。というわけで、近侍の彼とともに近場のホテルに駆け込んだのはつい先ほどのことだ。少しの間、雨宿りさせてもらうだけのつもりだったが、この様子だとしばらくは動けなさそうだ。
(朝帰りにならないうちに、本丸に帰りたかったんだけどな……)
 静かな部屋に雨音とシャワールームからの水音が妙に響いて聞こえる。私を庇ったせいでずぶ濡れになった彼にシャワーを勧めたのは良いものの、なんだかものすごく気まずい。落ち着かない気持ちのまま、窓辺に立って外の様子を眺めていると、いつの間にか背後に彼が立っていた。
「やはり止みそうにないな」
 窓に映った彼に向かって頷いて答える。そのまま無言で見つめあっていると、ふわりと後ろから抱きしめられた。温かいシャワーを浴びたばかりの彼からはシャンプーの良い香りが漂ってくる。どきりと心臓が跳ねた。
「……今日は泊まりになるな」
 耳に唇を寄せられて囁かれる。ぞくぞくと甘い痺れのようなものを感じながら、「そうですね」と小さく返せば、さらにぎゅっと強く抱きしめられた。首筋に彼の吐息がかかる。
「主」
 熱っぽい声で呼ばれて、身体の芯がじんと疼いた。このまま流されてしまいたい。そんな私の欲望に火をつけようとするかのように、耳を食まれる。
 雨粒が流れる窓に私と彼の姿が映っていた。ガラス越しに彼と目が合う。碧い瞳はこちらをじっと見ていたけれど、その奥には普段とは違う色が見え隠れしていた。どこか獣じみた欲を感じさせる眼差しにどくりと鼓動が鳴る。私はその碧から目が離せなくなっていた。まるで石のように固まったまま窓に見入ってしまう。彼の温かな熱に包み込まれて、何も考えられなくなる。このまま全てを委ねてしまいたくなる。
「……主」
 再び名前を呼ばれた。今度ははっきりと情欲を滲ませた声だった。耳の奥に直接吹き込まれるかのような低い響きに背筋がぞくりと震える。
 彼の腕に抱かれたまま、私はそっと瞼を閉じた。

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