「ノックする」
唇を触れ合わせるだけの優しい口づけを何度も繰り返す。やがて彼の舌先が、いつも部屋にやってくるときのように控えめにトントンと私の下唇を叩いた。それに応えるように薄く口を開けば、すぐに熱い舌が入り込んでくる。それは遠慮がちな催促とは裏腹な動きで、まるでこちらの呼吸を奪うような激しさで私を翻弄していった。
「んっ……ふぁ……ぅ」
時折漏れ出る自分の甘えた声を聞きながら頭の片隅で考える。こんなことをしていていいのだろうか? まだ夕食前だし、そもそもここは執務室なのだ。いつ誰が来てもおかしくない状況で何をしているのだろう……薄っすらと目を開けて彼の様子を窺うと、長めの前髪の間から余裕のない瞳が覗いていた。碧い双眼は情欲の色に染まって、じっと私のことを見つめて離さない。その視線に射抜かれた瞬間、心臓が大きく跳ねた。
(ああ、だめ、これ以上は……)
このままだと本当に戻れなくなってしまう。そう思って胸を押し返すけれど、彼はビクともしない。逆に腰を強く抱き寄せられてしまい、逃げ場を無くしてしまった。
「……逃げるな」
低く掠れた声で囁かれる。その声は普段よりもずっと艶っぽくて、体の芯がじんわりと熱を帯びていく。
「……好きだ」
そう言ってまた深く口付けられる。もう何も考えられなくなって、ただ与えられる快楽に身を任せるしかなかった。