長義さにつめ #3 - 6/8

いい子

 

 厚いカーテンが窓を覆い隠し、部屋は昼間だというのに薄暗い。静寂に包まれた室内で私は幼子をあやすように山姥切長義の背中をとん、とん、と一定のリズムで優しく叩いた。彼は今、私の膝に頭を預けて眠っている。彼の美しい銀髪がさらりと流れ落ちて、彼の端正な顔を彩る。まるで絵画のように美しくて思わず見惚れてしまった。彼は寝息を立てることもなく、ただ静かに目を閉じていた。
 山姥切長義は高潔で誇り高く、いつも隙きのない、完璧な存在だと思われている。しかし、それは間違いで、実際の彼は一段と傷つきやすく、繊細な刀剣男士だった。そんな彼の姿を私だけが知っていた。
(なぜ、私だったのだろう……)
 思い詰めた顔をした彼が私のもとにやってきた日のことを思い出す。私が彼の主だから、という理由だけではない気がする。もっと、何か別の……。
「……主?」
 考え込んで手が止まっていたらしい。膝の上の重みがもぞりと動いたかと思うと長義の眠たそうな蒼い瞳が私を見上げた。
「あ、ごめんなさい」
 慌てて謝ると長義は私の太股を枕にして再び目を閉じる。私のへその辺りに顔を擦り付けて甘えるような仕草をした。その様子が猫みたいで可愛らしい。
「二人きりのときは俺のことだけを考えて」
「そうでしたね」
 彼がぐりぐりと顔を押し付けて催促してくるので、私はその柔らかい髪を撫でた。すると彼はこちらを見上げて満足げに微笑んだ。その笑顔があまりにも幸せそうだったので、つられて笑ってしまった。
「主。もっと」
 長義が私の手に頭をすり寄せてくる。私はそれに応えて彼の望むまま何度も彼の髪に触れた。
「いい子、いい子」と褒めると彼は気持ちよさそうに目を細める。長義は私の片手を握ると指を絡めて恋人繋ぎをしてきた。そのまま指先に口づけをして、いたずらっぽく笑う。その表情はどこか艶めかしく見えた。
「いたずらですか? 困ったひとですね」
「うん、君限定のね」
 そう言って、彼は私の指先を軽く噛んだ。その感触がくすぐったくて私は小さく笑い声をあげる。
「っ……もう、長義さんったら」
「俺としては、もっと先まで進みたいと思っているんだけどね」
 私の指先を弄りながら長義が言った。
「えっと、その……」
 突然のことに私は言葉に詰まる。心臓がどきりと跳ねた。長義の言っている意味が分からないほど子どもではない。
「俺はいつでも待ってるよ」
 私の手を取ると長義は再びそこに唇を寄せた。そして妖艶な笑みを浮かべて私を見つめる。その瞳には確かな熱が宿っていた。
 彼の視線から逃げるように目を逸らし、俯く。恥ずかしくて顔から火が出そうだ。長義はそのまま私の手を持ち上げると、手の甲にもキスを落とした。

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