引きこもり審神者の本丸の話 - 2/5

レシピ

 

――新しい刀剣男士が顕現しました。
 普段執務室に引きこもりっぱなしの主から連絡がきたので、さっそく新刃お世話係に任命されている鯰尾藤四郎を鍛錬所へ向かわせる。その足で歌仙兼定は厨へ向かった。彼にはやることがある。
 時刻はまもなく正午、ちょうど昼餉の時間だ。厨では見慣れた仲間たちが食事の準備を進めている。主は日課に関すること以外に口は出さないので、料理を作るのはいつの間にか固定メンバーになってしまった。
「どうかしましたか。昼食の準備は順調です」
 厨に顔を見せると、近くにいた小夜左文字が胡乱げな瞳で歌仙を見た。
「ああ、お小夜。新たな刀剣男士が顕現したんだ」
「主、観念したんですか」
「そうみたいだね。鯰尾を行かせたから、彼がうまくやってくれているだろう」
 歌仙たちの主はひどい人見知りで、誰かとコミュニケーションをとるのが苦手だ。刀剣男士が増える度にもともと少なかった口数が減り、本丸の刀の数が10を超えた頃に「……無理でした」と歌仙に告げると部屋から出なくなってしまった。
 今回、新たに本丸にやってきたのは一期一振だ。この本丸初めての太刀で、鍛刀をしたのは三日前。戦力確保のために仲間は増やしたいが、本当は増やしたくはない。顕現までの長さに、そんな主の葛藤がうかがえた。
「ご飯、少し使わせてもらうよ」
「いいですよ」
 別の場所から堀川国広の声が飛んでくる。許可を得た歌仙は棚からざるを取り出すと、そこにご飯を入れて、流しで水にさらした。
「いつもの卵雑炊ですか? 僕、歌仙さんが作ってくれたの、好きですよ」
 たくさんの食器を運びながら堀川が微笑む。
「それはそれは。ありがとう」
 歌仙が作ろうとしているのは堀川が察したとおり、「卵雑炊」だった。本丸に新入りがやってくると、季節関係なく決まってこの料理を出す。そういう訳で、この本丸の刀剣男士が初めて胃に入れる食べ物は歌仙お手製の「卵雑炊」だった。
 理由はいろいろあった。卵雑炊は食べやすい。人間の体に慣れず、最初は苦労する男士がいるが匙なら箸より使いやすい。もし仲間が人間の体を使うことに苦労しているようであれば、食事風景で気づいて支えてやれる。それに雑炊は胃に優しいのも良い。
 主も、そう考えて作ったのだろうか。
 歌仙と小夜が初めて口にしたのは主が作った卵雑炊だった。五臓六腑に染み渡る優しい味だった。食べたのは随分前だが、今でもしっかり覚えている。
 ストックしてあるだし汁と調味料を土鍋に加えて、ひと煮立ち。一度お玉杓子ですくって、小皿に移してその出来ばえを味わう。
 目を閉じる。歌仙は小首をかしげた。
「お小夜はどう思う?」
「おいしいとは思います。……あなたにわからないなら、僕にわかるはずがない」
「材料は合っているはずなのだが、なにが違うのだろうね」
 ご飯を入れてひと煮立ち。溶き卵を入れて、小口ねぎを添える。その都度その都度で味見するが、やはり何かが違う気がしてならない。
 あの日、審神者が恐る恐る差し出してきた卵雑炊は、確かに歌仙と小夜への気遣いでできていた。その気持ちを汲むつもりで、歌仙は仲間に同じものを作っている。しかし、どうしても主が作ったものと同じ味は再現できないのだった。

 

2021/06/21
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