引きこもり審神者の本丸の話 - 5/5

おまけ:冷静な近侍の指摘

 

 政府から書類の作成を依頼され、端末のモニターとにらめっこしながらキーボードをたたく。自分の部屋にずっと引きこもっている審神者には自由な時間が豊富にあった。その時間を使って、日課の書類作成以外の事務をこなし、本丸運営資金の足しにしているのだ。
「あれ、これなんだったっけ……」
 文字入力していると、卓上に並べた資料によくわからない単語があった。過去にあった出来事か何かの俗称だと思われた。
 審神者関連のニュース記事や政府から送られてくる資料は書庫に収めている。これは書庫に足を運ぶ必要がありそうだ。
 嫌だなあ。審神者は一人ため息をついた。できるだけ部屋の外に出たくないと思っているから閉じこもっているのに、なんということだろう。
 書庫は部屋から離れていた。なぜあんな場所に作ってしまったのか……そう思うが、本丸の男士たちも利用するから仕方ない。
 作業を中断し、襖を少しだけ開けて、前の廊下に誰もいないことを確認する。廊下は静かで人影はない。行動を起こすのなら今だった。
 以前購入した七枚の面から一つを選びとって、華のない顔を隠す。美しい容姿の刀剣男士と真正面から顔を合わせるのはつらい。心臓が保たないのだ。

 壁に張り付き、気配を消すよう努め、目的の場所へ向かう。途中、一期一振の姿を見かけた。彼が通り過ぎていくのを待って先に進む。
「ねえ、なにをしているの」
 背後から突然話しかけられ、審神者は硬直した。よく知る声だとはわかっているが、どきどきしながら振り向く。そこには審神者が勝手ながら永久近侍に任命した小夜左文字が静かに立っていた。彼は不審者でも見るような目でこちらを見ていた。
「わ、私! 怪しいものではありません! 審神者です!」
 面の下で汗をだらだら流しながら、身振り手振りで適当に誤魔化す。小夜左文字は「知っているよ」と冷静に答え、「ずっと言おうと思っていたから言うよ」と前置きして続けた。
「あなたは目立たないようにしているつもりだろうけれど、逆に目立っているよ」
 彼の淡々とした口調に、審神者は思わず「まじですか」とこぼす。いつでも冷静で頼れる近侍はこくりと小さく頷いた。
「みんな気づいていないふりをしているんだと思うよ」
「……もしかして、気を遣わせてますかね?」
 小夜左文字は答えない。……それがきっと答えなのだ。
 審神者はがっくりと肩を落とした。いつかはなんとかしないと、そう思うものの、そのいつかは当分来ないだろうと思った。

 

2021/09/14
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