金木犀 #2 - 2/4

 肉まん

 

 冷たい風に身を竦ませながら、万屋街の一角にある店に入る。暖房の効いた店内は温かい。よくわからずに入った店だがどうやらコンビニのようで、なじみ深い商品が棚に陳列されている。
 寒い季節のせいか目を引くのはレジ横のホットショーケースだった。会計の際につい目を奪われて、冬だから仕方ないと言い訳をしながら、行儀よく並ぶ中華まんを二つ購入してしまった。定番の肉まんとつぶらな瞳が可愛らしいこんのすけまん。こんのすけまんの中身はてっきり油揚げかと思ったのだが、カスタードらしい。

 会計を待っていてくれた付き添いの彼と一緒に店を出て少し歩き、公園へとやってきた。ベンチに座って早速食べ始めることにする。中華まんは温かいうちに食べるに限る。
「肉まんとこんのすけまん、どちらがいいですか?」
「こんのすけまんってなんだ? うまいのか?」
 不思議そうに見比べる彼に説明しつつどっちを食べるか尋ねてみると、「あんたが先に選べば良いだろう」と言われてしまった。どちらにしようか迷っていたので彼に先に選んでほしかったのだが。
「あ、そうです! 半分こしましょう」
 ほかほかの中華まんに火傷しないように気をつけながら、まずは肉まんを半分に割っていく。白い湯気とともに、ジューシーな肉あんが姿を見せて食欲を誘った。大きな方を彼の方に差し出すと彼は困惑したような表情を浮かべていた。
「遠慮せずにどうぞ」
「……ではありがたく頂こう」
 恐縮しながらも受け取ってくれた彼がふーふー息を吹きかけて冷まして口に含む様子がなんだか可愛らしくて、笑みがこぼれる。そんな彼をこっそりうかがいながら、自分も同じようにして肉まんを口にする。
 はふはふ。温かくておいしい。ゆっくり咀むように味わうと口の中に広がる肉汁が何とも言えないくらい美味である。思わずにこにこしていると、隣の彼から視線を感じた。首をかしげてみせると何でもないという風にそっぽを向いてしまう。
 彼の手の中にあった肉まんがいつの間にかなくなっていることに気づき、もう一つのこんのすけまんを半分に分けようと手にとる。が、ふとあることに気づき動きを止める。
「どうしましょう。これ、どこで半分こにするのが正解なんですかね?」
 こんのすけの顔の形のカスタードまん。いろんな表情のものがあったが、店員が選んだものはウインクをしているものだった。真ん中で割ってしまうのはなんだか忍びない。
「腹に入れば同じだろう」
「そうかもしれませんが、なんかこう、かわいそうな気がしませんか? ひよこまんじゅうを頭から食べるのが申し訳ない気がするのと似たような気持ちです」
「ひよこまんじゅうってなんだ?」
「今度買ってきますね」
 話が逸れたが、問題はこんのすけまんである。縦に割るか横に割るか。バランスを考えるなら縦かな、などと考えていると、「あんたが全部食べれば問題ない」と言われてしまった。確かにそれもそうかもしれないと思うけれど、せっかくなので彼にも食べてもらいたい気がする。
「いえ、やっぱり半分こにしましょう」
 結局縦に割ることにした。深く考えては負けだと思い、気にしないことにする。少し時間がたったせいか、肉まんより持ちやすくなったそれを真ん中で半分に分ける。中からはやさしいクリーム色のカスタードが現れた。よくよく見ると黒い粒つぶが見えた。バニラビーンズが入っているらしい。
「どうぞ」
 目をつむっている方を手渡すと、彼はなんともいえない顔でそれを受け取った。眉間にシワを寄せているが嫌そうな感じではない。そのまま一口齧ると驚いたように目を見開いたあと嬉しそうにはにかんできた。その笑顔を見て私まで嬉しい気分になる。
「どんなものかと思ったが、意外に悪くないものだな」
 そう言ってまたもう一口頬張るものだから、つい微笑ましくなって眺めてしまう。私の視線に気づいているはずの彼は特に何も言わなかった。黙々と食べ続けているところをみると本当に気に入ったようだ。良かったと思いつつ自分の分を食べ終えてしまおうと手元を見るともう残り少なかった。
「また見かけたら買ってみましょう」
 名残惜しく思いながらも最後のひと口を放り込むようにして食べる。食べ終わると先程まで気にならなかった風が急にまた冷たく感じられて身震いしそうになる。隣にいる彼も同じようでぶるりと体を小さく震えさせた後こちらを見た。
「そろそろ帰りましょうか」
 こくりと首肯される。それから無言のまま二人並んで帰路についた。とある昼下がりの話である。

 

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