サニゾンの通販ページを見ていたら、「人をダメにする」と話題のビーズクッションを見つけた。その商品説明欄には「一度座ると立ち上がれなくなります」「座り心地抜群で体の負担が少ない」などと書かれている。これだ! と思い、物は試しにと思い切って購入することにした。
その数日後。ちょうど非番だったので部屋の掃除をしている最中のことだった。「おーい、山姥切に届け物だぞー」障子越しに声をかけられ、戸を開ければ、大型のダンボールを抱えた鶴丸がいた。
「ああ、すまない。重くなかったか」
「気にするな。見た目の割には軽かったしな! ところでこれはなんだい?」
興味深そうに箱を見つめる鶴丸に、「ただの椅子だ。たいしたものじゃない」と答えて、荷物を受取る。改めて鶴丸に礼を言って別れ、部屋に戻った。そして早速開封してみたのだが……予想以上の大きさであることがわかった。直径1メートルくらいはあるだろうか。
とりあえず腰掛けてみると、ふわっと包み込まれるような感覚があった。なかなか悪くない感触である。そのまましばらくボーッとしているうちに、いつの間にか眠っていたらしい。欠伸を噛み殺しながら壁の時計を見れば、一時間以上経過していることがわかった。
このソファ、本当に『人をダメにする』らしい。想像以上の心地よさだ。これはいいかもしれない、とはやる気持ちを抑えながら部屋を出て、主の執務室に向かった。
「失礼する」
中に入ると、彼女は書類仕事に追われていたようだ。俺の姿を見るなり驚いたように目を丸くした。
「あれ? どうしましたか、山姥切くん」
「またあんたが休憩し忘れているんじゃないかと思ってな。休憩を促しに来た」
「あ……ありがとうございます。でも大丈夫ですから、お気遣いなく」
遠慮するように微笑む彼女にため息をつく。この人は意外に強情なところがあるから困りものだ。だがそれなりに付き合いが長いので、彼女が押しに弱いことも知っている。そして、自分の刀からのお願いに弱いということも。
「……実はサニゾンで良い買い物をしたんだ。あんたに見せたいから一緒に来てくれ」
わざとらしく咳払いして用件を切り出すと、案の定少し考えたあと了承してくれた。俺は内心ガッツポーズをしながら彼女の手を引いて歩き出した。
部屋に着いてすぐ、彼女に『人をダメにするソファ』に座ってみるよう促すと、最初は戸惑いながらもゆっくりと体を沈めていった。おおっ! という声とともに表情が変わる様を見て、思わず笑ってしまった。やはり思った通りの反応だったからだ。
「なんでしょうね、コレ……すごいですね……」
「だろう?」
「こんなものまであるんですね……。私の部屋にも欲しいかもしれません」
「……いつでも俺の部屋にくればいいじゃないか」
つい口から本音が漏れてしまったことにハッとする。しまったと思ったときにはもう遅かった。慌てて誤魔化そうとしたが、それよりも早く主に反応されてしまったのだ。
「えっ!?︎」
驚きの声のあと、顔を真っ赤にして黙り込んでしまう彼女を前にして途方に暮れてしまう。まずいことになったと思うものの、今更取り繕うことなんてできない。なんとか言葉を絞り出そうとするが何も思い浮かばず、沈黙だけが続いていく。そんなとき、突然勢いよく立ち上がった彼女によって空気が変わった。
「さぁ、仕事を片付けてしまいましょう!」
努めて明るく振る舞おうとするその姿を前にすると、こちらもそれに応えるしかないという気分になる。
「がんばります! ……えっと、がんばったあとに山姥切くんのソファ、使わせてもらいますね?」
照れ隠しなのか、早口で言うやいなやそそくさと立ち去ってしまう背中を見ながら、顔が熱くなるのを感じた。あんなことを言われてしまえば、ますます期待してしまうではないか。心臓が激しく脈打ち始めるのを感じながら、その日一日ずっと上の空で過ごしたことは言うまでもない。