金木犀 #3 - 2/11

甘える

 

「あの、隣に座ってもいいでしょうか」
 遠慮がちに尋ねてきた審神者に、山姥切はこくりと首肯で返した。ありがとうございます、と礼を言って、彼女は静かに腰を下ろした。
 それからしばらくの間、沈黙が続いた。審神者は何をするでもなく、ただじっと座っていた。そのうち、彼女が再び口を開いた。
「……もう少しだけ、側に寄ってもいいですか?」
「構わない。好きなだけ寄りかかってくれ」
 膝の上に乗せていた本から顔を上げて、彼女の方に向き直った。すると、驚いたような表情を浮かべた後、眼鏡のつるを指先で押し上げながら、照れくさそうにはにかんできた。
「ええと、では、失礼します」
「ああ」
 返事をすると、審神者はすぐに体を預けてくる。控えめな重みが伝わってきて、自然と口許が緩んだ。触れ合った肩から温もりが伝わる。審神者の体温を感じて、愛しさが込み上げてくる。
「主、今日はどうしたんだ?」
「特になにかあったわけではないのですが……えっと、すみません。変でしたよね。失礼しました」
 恥ずかしそうに俯いたかと思ったら、次の瞬間、審神者が離れていく。その熱が遠ざかっていくことに名残惜しさを覚えて、山姥切も本を閉じた。
「謝る必要はない。俺もあんたに触れていたかったから」
「……っ」
 素直に気持ちを吐露すれば、審神者は顔を真っ赤にして黙り込んだ。その後、ぽつりと呟くように言った。
「……ずるいですよ」
「なんとでも言ってくれ。……主」
 山姥切が肩を抱き寄せると、審神者の体が強張るのを感じた。そのまま引き寄せて、腕の中に閉じ込める。
 抵抗はなかった。おずおずと背中に手が回されて、ぎゅうと抱きついてきたのがわかった。そのいじらしさが可愛らしくて仕方がない。思わず口づけると、彼女もまた応えてくれるのがわかった。
「甘えたかったのか?」
 こっくりと無防備に頭が揺れた。その仕草に胸の奥が疼いて、また唇を重ねた。互いの唇の柔らかさを堪能した後、「続きをしてもいいか?」と尋ねる。耳の側で囁けば、体がびくりとはねた。それでも嫌だと言わないのが彼女らしかったし、「はい」という小さな声が返ってくるのがたまらなかった。山姥切は己の中の獣が暴れ出すのを自覚しながら、ゆっくりと審神者を畳に押し倒した。

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