金木犀 #3 - 4/11

リップクリーム

 

 乾燥しているせいだろうか。唇がかさついているのが気になって、ぺろりと舐めた。すると、それを見ていた主が咎めるように「山姥切くん、いけませんよ」と言った。
「ちょっと待っててくださいね」
 そう言って立ち上がり、執務室を出たかと思うとすぐに戻ってきた。片手に小さな丸いプラスチックのケースを持っている。俺の目の前に座り、ケースの蓋を開けると「じっとしていてくださいね」と言い、中に入っていたクリームを指先に取って、そっと俺の唇に塗る。
 ひんやりとした感覚に思わず身震いする。主は申し訳なさそうに謝ってから、もう一度指先を滑らせた。慎重に丁寧にクリームが唇にのせられていく。
「唇が荒れたときは舐めてはいけません。余計にひどくなってしまいますよ」
 分かった、と言うと主は安心したように微笑んだ。

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