金木犀 #3 - 7/11

強風注意報

 

 今日は朝からずっと強風が吹いている。空は快晴。絶好のお洗濯日和である。審神者は庭先でシーツを広げながら、風に飛ばされないよう端っこを持ってじっとしていた。隣には近侍の山姥切国広がいて、同じようにシーツの端っこを持っている。
「その位置で止めてもらっていいですか」
「わかった」
 山姥切が頷き、洗濯バサミでシーツを止めようとする。そのとき、また一段と強く風が吹いた。ばさりと音を立てて彼の被っていた布が宙に舞う。
「っ!」
「……あ」
 普段は隠されている山姥切の素顔があらわになった瞬間、審神者の胸がどきんと大きく跳ねた。思わずぽかんとしていると、山姥切は大慌てで干そうとしていたシーツを手繰り寄せた。湿っているのも構わずに、そのまま被って顔を隠してしまった。
「山姥切くん!? あなたの服も濡れちゃいますよ!?」
「……いい」
「いやいや、よくありませんよ! ちょっと待っててください」
 ふわふわと飛んでいく布を追いかけていくと、ちょうど角を曲がったところで見失った。どこに行ってしまったのだろう。きょろきょろ辺りを見渡せば、木の枝に白い布が引っかかっている。手を伸ばしてみるが届かず、ぴょこぴょこ飛び跳ねてみるものの、届かない。
「あと少しなんだけど……」
 審神者がうなっていたところ、後ろから手が伸びてきて、布をつかんで持っていった。振り返ると蜻蛉切がいて、「どうぞ」と手を差し出してくる。
「ありがとうございます!」
 礼を言って受け取り、急いで山姥切のもとに駆け寄る。相変わらず彼はシーツを被って蹲っており、シーツの端が地面に落ちていた。また洗濯が必要そうだなと思いながら声をかける。
「あなたの布ですよ。こちらを使ってください。湿ってしまいますからね」
 審神者はしゃがみこんでそっと白い塊に触れた。びくりと彼が震える。
「……悪い」
 シーツの下から手がにゅっと伸びて、差し出した布を受け取っていった。
「……助かった」
 そう言うやいなや、彼は目にも留まらぬ速さで布を被り直した。シーツを抱えると「洗い直してくる」と言って、その場を走り去ってしまう。審神者はその後姿をただ見送ることしかできなかった。

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