銀木犀 #2 - 3/4

アイスクリーム

 

 太陽が燦々と輝く青空の広がる夏真っ盛りの頃だった。万屋街での買い出しの帰りに、広場の前を通るとアイスクリームのキッチンカーが来ていた。写真映えしそうな、目に楽しいアイスを持った審神者や刀剣男士の姿が見える。そういえば加州清光と大和守安定が、おいしいアイスクリームの店を見つけたと話していたことを思い出す。
 山姥切長義は隣の審神者を見る。彼女はその白い肌の上に汗を滲ませながら、「今日は暑いですね」と呟いた。片手を扇代わりにパタパタさせて風を送っているものの、あまり効果はなさそうだ。
「少し休憩しようか。冷たいものでも食べよう」
 広間のキッチンカーを指さすと彼女は悩むような素振りを見せつつも、小さくうなずいた。
 女性に好まれそうなピンク色のキッチンカーの前には数人列ができていて、その最後尾についた。案内板に写真とともに扱っているアイスの種類が書かれていた。バニラやチョコ、ストロベリーなどの定番ものはもちろん、変わり種として甘酒ミルク味や梅味、ずんだ味などという珍しいものも取り扱っているらしい。刀剣男士の好みが反映されているのかもなと思ったが特に口には出さなかった。
 彼女は案内板を食い入るように見つめながら、うんうん悩んでいた。メニューを見て決めあぐねている様子だ。視線をたどってみると二つのフレーバーで迷っているようだ。彼女が眺めているのは抹茶とラムレーズンのアイスクリームである。どちらもおいしそうではあるが、片方は和風テイスト、もう片方は洋風だから悩みどころだろう。長義は小さく笑った。
「主、一つずつ買ってシェアしようか?」
「え?」
「どれにしようか迷っているんだろう? なら、いつも君が短刀や他の子らとやるみたいに半分こして分け合えばいいじゃないか」
 長義の提案に審神者は目を丸くしたが、少し考えた後に恥ずかしそうにこくりと小鳥のように首を縦に振った。
 順番が来たので、審神者と二人で並んで注文する。彼女の方は抹茶、そして自分はラムレーズンを頼んだ。それぞれコーンカップに入れてもらい受け取る。近くに日陰のベンチがあったのでそこで食べることにした。
 ふたりで並んで腰掛け、溶けないうちにと早速スプーンを差し込む。ひんやりとした冷たい感触とともにバニラとラム酒が混ざり合った大人の味わい深い香りが広がる。隣の彼女を見ると頬を押さえて幸せそうな表情をしていた。それを見て自然と笑みがこぼれる。彼女はそんな長義に気づいて少しだけ気まずげな顔をしたが、すぐに照れくさそうに笑い返してくれた。
「抹茶味、おいしいですよ。長義さんもよかったら食べてみてください」
 どうぞ、とスプーンで掬ったアイスが差し出される。「はい、あーん」という言葉に促されて、思わずそのまま口を開けてしまった。ぱくりとかぶりつく。濃厚な抹茶味のアイスを舌の上で溶かすようにして堪能する。口の中いっぱいに広がる苦味とそれを覆うような甘味が心地よいハーモニーを生み出していた。
「おいしいな」
「でしょう?」
 嬉しげに微笑む彼女に長義も笑い返した。すると彼女はまた掬ったアイスをこちらに差し出してきた。
「君も食べなよ」
「おいしいものは一緒に食べたほうがよりおいしく感じられますよね?」
 だから、と彼女は言った。長義は観念したように溜息をつき、再び口を開く。彼女はそこにスプーンを差し入れてきた。口の中で広がる抹茶味。同時に長義の胸に幸福感が広がる。こんな些細なやり取りがひどく尊く感じるのが不思議だった。ふっと口元が緩んでいくのを感じる。
「俺のラムレーズンもどうぞ」
 スプーンを差し出す。彼女は一瞬目を丸くした後、にっこりと笑って口を開けた。その無防備な姿に愛しさを覚えながらスプーンを差し入れる。
「おいしいかな?」
「はい、とっても!」
 彼女はそう言って屈託のない笑顔をこちらに向けた。太陽のように眩しいそれに長義はそっと瞳を細める。夏の暑さのせいだけではなく顔が熱くなるのを感じた。

 

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