ひねもすのたり #1 - 2/12

おにぎり

 

 畑仕事など柄ではないというのに、うっかりがんばってしまった。それもこれも主がわざわざ様子を見にきたのが悪い。長義はよくわからない責任転嫁をしながら、廊下を歩いていた。
 長義は小腹がすいていた。向かう先は厨だ。「厨におにぎりがありますので、お腹がすいたときによかったら食べてくださいね」と、主に言われたことを思い出したのだ。

 

 入り口の暖簾をくぐると、なんとも言えない表情をした鶴丸国永が立っていた。彼の視線は、カウンター台に置かれた大皿に注がれている。
「きみ、これを見てどう思う?」
 腕組みをしながら彼は問う。長義は仕方なしにそれを見た。
 皿の上には、海苔が巻かれた握り飯が複数のっていた。型に入れたようにどれも同じ形で、整っている。だが、元々きれいに敷き詰められていただろうそこには、ところどころに穴ができていた。規則性はない。他の刀たちが適当に持っていったのだろう。長義はそう判断した。
「ここの本丸では握り飯が好まれているようだな」
「作業しながら食べられるし、腹持ちもいい……って、そうじゃない。これ、ひどいと思わないか?」
「なにがひどいのかな」
「ああ、きみはこの本丸にきてまだ日が浅かったか。……これ、規則性がないように見えるだろうが、実は規則性があるんだ」
 ううむと唸ると、鶴丸は「なにがいけなかったんだ」と呟いた。
「実はな、穴あき部分の場所には主がつくった握り飯が置かれていたんだ。あいつら、しっかり見極めやがって……」
「……それはきみの普段の行いが悪いのでは?」
 鶴丸国永は驚きを愛する刀である。彼が食事当番で、食べ物をつくる。しかもそれが中身のわからない握り飯となれば、ほかの刀たちが警戒するのも無理はない。
「俺は食べ物で遊んだりはしないぜ。主だって、おいしいですよって言ってくれた! 大体、中身の具は主のと同じだ」
「しかし、きみの自信作たちはこうして残っている」
 指摘してやれば、鶴丸はおもしろくなさそうな顔をした。かと思えば、一変にやりと笑い、「残りは二個だ」と口を開く。
「は?」
「主がつくった握り飯の数だ。腹が立ったから、俺はこれを頂くぜ」
 残っているものの中から、ひとつ手でつかむ。迷いのない動きだった。きっと彼が言う、審神者が作った握り飯なのだろう。
「きみは俺の渾身の作をよく味わうといい! なに、味はほぼ同じだ!」
 片手で行儀悪くほおばりながら、鶴丸は厨を去っていった。
 その背中を黙って見送り、長義は皿の上に残された握り飯を見た。この中のひとつだけが主が作ったものだというが、長義の目にはどれも同じように映る。ほかの刀たちはどう見分けたというのだろうか。見た目……それとも込められた霊力か。じっと見つめてみるが、大差はないように思われた。

 

 首を傾げていると、厨にだれかがやってきた。顔をのぞかせたのは、山姥切の名を騙る偽物――主の初期刀だった。舌打ちしそうになるのを大人げないことだと堪えて、男を一瞥する。
 先に声をあげたのは相手のほうだった。
「……お前も腹が減ったのか」
「そうだとしたら、なんだというのかな」
「別に、何も。俺も腹が減ったから来た。まだ残っていてよかった」
 口もとをほころばせ、中途半端な位置にあるひとつの握り飯にまっすぐ手を伸ばす。鶴丸同様、目の前の男もまったく迷いのない動きだった。
 これが主の作ったものだったのか。
 偽物が手にとったその握り飯が妙においしそうな、良いものに感じられた。つい長義が視線を向けていると「やらないからな」などと男は言う。
「そんなにそれがいいのか」
「俺はこれがいい。だが、残ってるやつもうまいと思う。主はおいしいと言って食べていた」
 そう言い残し、さっさと厨から出て行く。
 長義は残された握り飯をそっと取った。やはり、あれが持っていたものとなんら変わりないように思われた。一体なにが違うのか。
 すっきりしない思いを抱え、ためつすがめつしつつ、ひとくち食べる。いい塩加減だ。食べ進めると、中から鶏のからあげが顔を見せた。味は作成した彼が豪語したとおり、おいしかった。
 それだというのに、長義は自分の偽物が嬉しそうに持っていった握り飯が頭から離れないのだった。

2021/05/19
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