ひねもすのたり #1 - 4/12

おまけ:おやつは別腹

 

 雲ひとつない澄み切った青空の下、庭では短刀たちが楽しげな声をあげている。彼らが興じているのは子どもの遊戯である<だるまさんが転んだ>であったが、参加しているのはすでに修行を済ませた短刀たちばかり。なかなかスリルのある攻防を繰り広げている。
 その様子を眺めながら、鶯丸は用意していた饅頭を一口かじり、湯気をたてる茶をすすった。
「あれ、今日は珍しい方が参加しているんですね」
 そろそろと濡れ縁を歩いてきたのは本丸を預かる審神者だった。眩しそうに額の上に手を当て、影をつくりながら庭を見ている。ちなみに、彼女が短刀たちから遊びに強制参加させられることはない。体力があまりに違いすぎるというのもあるが、彼らが現在行っている遊戯は鍛錬の一環でもあるからだ。
「あいつは短刀たちの遊びについて知らなかったようだ」
「説明する機会、あんまりありませんしね……」
 審神者の目は最近本丸にやってきた山姥切長義の方を向いていた。
「主はあの新入りを気にしているようだな」
「そんなふうに見えますか」
「ああ、見える」
 手の中の湯呑を口に運ぶ。審神者は立ったまま、静かにぽつぽつと話し始めた。
「そうですか。……なんといいますか、あのひと、いつも気を張っているように見えて心配というか……。もうちょっと気を緩めてもいいんじゃないかなあ、と。元監査官さんを私みたいなのが心配する、というのも烏滸(おこ)がましい気はするんですけど……。でも、なんだか今はいつもと表情が違いますね」
「ものすごく疲れているようだ」
 片や極まった短刀、片や特がついたばかりの新刃。圧倒的な差がそこにはある。無理もないことだった。
 冷静に指摘してやれば、審神者は困ったように微笑んだ。
「うーん、そういうことではないのですが」
「で、主はどうしてここへ来たんだ」
「あっ、そうでした。そろそろ三時のおやつの準備が整いそうなので伝えに来たんですが……ふふ、もう一度出直した方がいいのかもしれませんね」
「同田貫は自分から鍛錬として参加しているが、新入りや石切丸は早く解放されたがっていると思うぞ」
「ですが、短刀のみなさんが楽しそうにしているのを見ると、邪魔しちゃいけないなあって思っちゃうんですよね」
 庭の刀たちを眺める審神者のまなざしはやわらかい。鶯丸は湯呑の中の茶をすべて喉に流し込むと、盆に載せて立ち上がった。
「確かにあいつらの邪魔はできんな。よし、わざわざ主が呼びに来たのだし俺が行くか。今日のおやつは何なんだ?」
「ふわふわのどら焼きですよ」
「それは楽しみだ。今日の担当は燭台切と堀川だったな」
 ふたりは本丸の刀の中でも料理上手として信頼が厚い。体を動かして疲れている彼らにとって良いおやつとなるだろう。鶯丸は苦しげに息を整えている仲間を見た。
 庭では鬼役の短刀がスキップするように飛び跳ねている。ぴょんと軽やかに新入りを捕まえてしまった。がっくりと項垂れる様子を見て、悪いと思いながらも笑ってしまう。
「あれ? そういえば鶯丸さん、さっきまで何か食べてませんでしたか」
「まあなんだ、細かいことは気にするな」
 よく口にする言葉とともに首を傾げる審神者の背中を押しながら、鶯丸は賑やかな場を後にした。

 

2021/7/10
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