厩舎の馬に散々振り回され、解放されたころには陽が傾き始めていた。
馬当番は出陣よりずっと疲れる。同じ当番だった仲間とわかれた長義はさっさと身を清めるべく、屋敷へと急いでいた。
米神から汗が流れ落ちる。季節は夏。本丸の空から降り注ぐ日差しは強い。気温の高さにも湿度の高さにも閉口しながら歩いていると、前方から洗濯かごを抱えた審神者が歩いてきた。長義の姿をみとめた彼女が小さく会釈すると、彼女がかぶっている麦わら帽子の紺色のリボンの端がふわりと揺れた。
「お疲れさまです」
「ああ。きみは洗濯当番の手伝いかな」
「はい。良い天気だったので、今日はみんなで大物を片付けましたよ」
審神者が洗濯かごの中身を誇らしげに見せてくる。中には白い布の山があった。おそらく布団のシーツかなにかだろうと判断する。
「それはお疲れさま」
労いの言葉を返すと、なぜか審神者は長義をじっと見つめていた。なにか変なことを言っただろうか、それとも服装が乱れていたのか。普段あまり見ない彼女の反応に落ち着かない思いでいると、なにを思ったのか彼女がぐっと近づいてくる。
やわらかなにおいが香る。洗濯物の柔軟剤だとわかっているのに、妙にどきりとした。かごを地面に下ろした審神者は、視線を長義から外すことなく手を伸ばしてくる。突然のできごとに長義は目を瞠らせた。
髪に審神者の細い指先が触れ、離れる。
彼女はしげしげと指でつまんだものを見て、静かに口を開いた。
「藁がついていましたよ」
「……藁」
確かに彼女の指の間にそれはあった。先刻、厩舎で馬にからかわれたことを思い出す。
長義は小さくため息をこぼした。藁。まったく気づかなかった。格好がつかないし、少々気恥ずかしい。
「ふふ、山姥切長義さんの珍しいところを見てしまいました。あっ、冷蔵庫に麦茶と切った西瓜が入ってますので、よかったらあとで召し上がってくださいね」
長義の思いなど少しも気づいていない様子でかごを抱え直すと、審神者はなにごともなかったかのようにその場をあとにした。
2021/08/03
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