てのひら男士長義くん - 2/3

1. 届け物

 

 季節は桜の花が咲く春。
 山姥切の主は現世で職を持つ兼業審神者として、日々現世と本丸を行き来している。新年度が始まり、仕事内容が変わったという主は覚えることが多いらしく、普段以上に忙しそうにしている。
 多忙な審神者の目の下にうっすらと隈ができている。そんなことに気づいた翌日のことだった。
 近侍部屋で自身の本体の調子を見ていた山姥切の耳に、廊下をばたばたと走る音が入った。部屋の襖の隙間から顔を見せたのは後藤だった。
「大将宛の荷物が届いたんだけど、なんか知ってる?」
「いや、俺は聞いてない」
 山姥切は首を横に振った。この本丸を預かる審神者は真面目な性格の女性で、報連相を怠らない。
「そっか。じゃあ、なんだろ? とりあえず配送式神が困ってるから、見てきてくれねぇ?」
「わかった、すぐに行く」
「よろしくな!」
 来たときと同じように、走って後藤は去っていく。山姥切はひと息ついて本体を鞘に戻し、立ち上がる。そして、<困ったときの近侍箱>から受取印の予備を取り出すと、さっそく玄関に向かった。

 玄関には鍛錬所にいる小さいものと似た式神が待機していた。本丸に荷物が届くときに現れる、配送式神だ。彼は両手に紙を持っている。
 上がり(かまち)にダンボールが置かれていた。<壊れ物注意>のシールが目立つように貼られている。配送伝票を確認すると、本丸番号と主の審神者名がしっかりと記入されていた。発送元は政府の審神者支援課。その発送元を見て、腕を組んで思案する。
 あの律義な主が、政府からの荷物についての連絡を忘れるだろうか。それとも、うっかり忘れてしまうほどに疲れているのか。
 審神者のことが心配になる山姥切の目の前に、小さな破裂音と白い煙ともに管狐のこんのすけが現れた。きつねは姿を見せるやいなや声をあげた。
「本日、主さま宛に政府から荷物が届く予定でございます。お受け取りくださいませ」
「…………お前はいつも連絡が遅い」
 こんのすけの背をつまみあげる。短い足をばたつかせる小さな管狐に山姥切はため息をついた。
「おや、山姥切国広さま。悩みごとですか? ため息をつくと幸せが逃げてしまいますよ?」
「誰のせいだ、誰の」
 悪びれないこんのすけに呆れながら、配送式神が持つ紙に印を押す。
「これでいいか」
 式神はふるふると首を振り、用紙の受取代理人名の空欄を指さす。
 ずいぶん細かい。高価な品物でも入っているのか。
 山姥切は玄関脇の棚の上からボールペンをとり、示された箇所に自身の名前を書き記す。次の瞬間、配送式神は満足げな顔で姿を消した。……こんのすけもいつの間にか消えていた。
 まったく神出鬼没なやつだ。山姥切はひとり毒づいた。

 

 夕方、空が赤く染まったころに審神者が本丸に帰還した。なにか変わったことはないかと尋ねる彼女に、山姥切は昼間のできごとを報告した。
「政府から届け物ですか。なんでしょうね?」
 首をかしげる審神者には、やはり荷物の心当たりがないらしい。今更ではあるが、こんのすけから詳しく話を聞くべきだったと山姥切は後悔した。
「……勝手に悪いが、荷物はあんたの部屋に運ばせてもらった」
「いえ、ありがとうございます。中の確認は諸々が終わってからしましょう」
 そうして、審神者はてきぱきと刀剣男士たちに指示を出していく。のんびりとした空気が漂っていた本丸が、途端に引き締まる。みな要領よく、さくさくと立ち動いていく。
 支度はすべて整っている。近侍の山姥切も第一部隊の隊長として戦場へ出た。
 
 滞りなく日課を終え、審神者とともに執務室へ戻る。「今日もありがとうございました」そう言って、彼女はちゃぶ台の前の座布団に座った。山姥切も座布団に促され、そこに腰をおろす。
「これが例の届け物ですね」
 腕で抱えられるくらいの小型のダンボールだ。審神者は眼鏡の位置を調整しながら、しげしげと配送伝票を見つめている。
「内容には審神者支援品とありますが……まあ、ともかく開けてみましょう」
 道具入れからカッターを取り出し、テープで固く閉じられた箇所をまっすぐに切り開いていく。山姥切はその様子を苦々しく思いながら見つめた。山姥切は審神者が使うこの道具があまり好きではない。
 開かれたダンボールの中には、緩衝材がびっしり詰まっていた。一番上に封筒が置かれている。封はされていないようで、審神者は一枚の紙を取り出した。
「えっと……『審神者サポート<てのひら男士>シリーズ送付のお知らせ』……。てのひら男士?」
「なんだそれは」
「うーん……ああ、なるほど……。私、抽選に当たったようです」
 知らせにざっと目を通した審神者がかいつまんで説明を始める。
 曰く、<てのひら男士>は政府の審神者支援課で刀剣男士の協力のもと開発された、サポート男士だという。想定している利用者は兼業審神者で、現世でも仕事をしている審神者に抽選で送られているらしい。
「詳細は説明書を見てね、まだ開発途中だからモニターやってね、気に入ったら購入検討してみてね、って書かれてますね」
 手紙を脇に置き、緩衝材を丁寧に出していく。途中、審神者が「あっ」と声をあげた。
 ダンボールよりだいぶ小さなプラスチックの箱を、両手で壊れ物を扱うように持ち上げる。その透明な箱を見て、思わず山姥切も声をあげる。
「小さい、本科……!?」
「山姥切長義さん、ですね……」
 ふたりそろって、まじまじと箱の中を見つめる。
 手のひらくらい大きさの山姥切長義が、そこで目を閉じて身を横たえていた。

 

2021/05/31
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