日々の業務の合間を縫って、密かにふたりの時間をつくる。なにをするわけでもなく、となりで同じ時を過ごす。主の側は心地がよく、共にいるだけで満たされる……はずなのだが、なにが楽しいのかにこにこしている彼女を見ていたら、それだけでは足りなくなってしまった。どういうわけか無性に触れたくなり、たまらず肩を引き寄せて彼女の唇に自分のそれを軽く重ねる。
「…………っ!」
突然すぎたのが悪かったのか、間髪入れずに俺の体は押し返された。強い力だった。
「急に悪かった」
素直に謝れば、胸を押す力は弱々しくなる。その白い手をとって握りしめ、主の様子をうかがう。俯いているせいで、彼女の顔がよく見えないのがおもしろくない。そんな思考が伝わったわけではないと思うが、主の肩がびくりとわずかに震えた。
「……俺のことが嫌いか」
「その聞き方は、ずるいです」
「あんたは、こういうことするのは嫌か?」
囁くように尋ねる。彼女はふるふると小さく首を横に振った。否定されたわけではないことに安堵する。
「俺はもっと、あんたに触れたい」
なかなか答えをくれない主に焦れったくなって、掴んだままの細い指先にそっと口づけてみる。
またたく間に、主が赤くなった顔を見せた。果実のようで美味そうだ。今すぐ食べてしまいたいなどと思っていると、もごもごと言いづらそうに主が口を開いた。
「山姥切くんなら、いいと思っています。けど……」
「けど、なんだ?」
先を促して返事を待っていると、ほどなくして蚊の鳴くような声で続ける。
「恥ずかしいんです」
「拒否する理由はそれだけか?」
きまりが悪そうに顔を背けて、主はこくりと小さく頷いた。
「それなら、問題ないな」
そんな彼女に覆いかぶさり、二度目の口づけをする。一度目よりも強く重ねる。
目と鼻の先の主は困ったように眉を下げて固まっている。その様子を見ているともっと困らせたいと思うし、恥ずかしがらせたいとも思う。なにより、かわいいと思った。
離した口は自然と緩む。そのまま主の耳元でささめいた。
――今ここにいるのは、俺とあんたのふたりだけだ、と。
2021/06/05
目次に戻る