今日はお祭り - 4/4

衝動買い

 

 急に必要なものができたということで、たまたま手の空いていた山姥切が万屋へ買い出しに行くことになった。
 頼まれたものを頭の中で反芻させながら歩道を歩いていると、通りかかった小間物屋の店先から「贈り物にどうですか~」と店番の女が客寄せする声が聞こえてくる。
 思わず足を止めて、目を向ける。そこには櫛、簪、手鏡、口紅――と女性が好みそうなこまごまとした日用品が整然と並んでいた。
 洒落た品が数ある中、ひとつの簪に視線が行く。先端に碧色の玉が付いた簪。控えめな装飾だが、玉には可愛らしい白い小花の絵が描かれている。
 山姥切はふと審神者の笑顔を思い浮かべた。
……主もこういうのを好むのだろうか)
 彼女が店で装飾品を吟味する姿は見たことがない。嫌いということはないのだろうが、欲しいと口にするのを聞いたことはないし、身につけているところも滅多に見ない。
 贈ってみてはどうか。一瞬そんな考えが脳裏を過ぎる。
 無意識にその簪をじっと見ていたらしい。「それ、とんぼ玉なんですよ。きれいですし、かわいいでしょう?」視線に気がついたらしい店番がにこやかに勧めてくる。
「す、すまない」
 まだ買うと決めたわけではなかった。突然話しかけられた山姥切は詫びの言葉を述べ、足早に店から離れた。

 買い物を早々に済ませ、家路につく。その途中、再び小間物屋の前を通りかかる。自然に目は陳列棚を見ていた。先程見かけた玉簪は同じ位置にそのまま置かれていた。
 店番の強い視線を感じる。居心地が悪かった。行きと同様にさっさと立ち去ればいい、それなのに足は地面に縫い付けられたままだった。
「毎度ありがとうございます。今後ともご贔屓に~」
 気がつけば、例の玉簪を購入していた。もちろん自費だ。手のひらの上に乗せた薄い化粧箱に目を落とし、山姥切は深いため息をついた。
「こんなもの買って俺はどうするんだ……
 渡せるわけがない。
 なぜこんな行動をとってしまったのか。自分のことながら理解できず、山姥切は箱を上着のポケットに突っ込んだ。

 

2021/08/23
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