山姥切長義と出られない部屋 2nd

 出陣していた部隊が帰還したらしく、玄関口がやけに騒々しい。
 もう少し静かにできないものか。書物でも読もうと資料室に向かっていたところ、早足で廊下を歩く審神者とすれ違った。彼女の表情は普段より険しく、眉間に皺が寄っている。こんな表情をするとき、彼女は大抵悲しんでいるのだということを長義は最近知った。「あれは怒っているわけではない」と審神者を庇うように言ってきたのは初期刀である偽物のあいつだった。
「どうかしたのかな」
 声をかけると出陣先で負傷した隊員がいるので、手入れ用の資材を取りに行くと彼女はいう。そんなことは近侍にでもやらせればいいのにと思ったが、近侍は負傷者を手入部屋に運ぶ手伝いをしているとのことだった。どうやら負傷者の数が多いらしい。
 仕事ができ、気遣いができると思われている刀剣男士らしく、長義は手伝いを申し出た。審神者は一瞬躊躇う様子を見せたものの、「よろしくお願いします」と丁寧に頭を下げた。

 資材部屋までの距離はすぐだったので、二人して中に入る。だが、そこは壁も天井も真っ白な見慣れない部屋だった。
(これはもしや……)
 長義の脳裏にある予感がよぎった。審神者も同じだったらしく、顔を青ざめさせている。おそらく彼女はこの部屋がなにか理解したうえで、手入れ部屋に残してきた仲間たちの心配をしている。
「ここは例の部屋かな」
「……そうみたいですね」
 この本丸には不定期に奇妙な部屋が現れる。通称「出られない部屋」。指定されたことをなさなければ、何をしてもその部屋から出ることができない、という摩訶不思議な部屋だ。一説によると審神者の霊力が関係しているという。
 以前、長義は一度だけ審神者と訳のわからない部屋に入ったことがある。室内なのにそこは夏の森だった。その異空間で、長義と審神者は蝉を捕まえろというトンチキな指示を出されたのだ。
 今度はどれだけ馬鹿馬鹿しいことをさせられるのか。どこかに指示が出されているはずだ、と辺りをぐるりと見渡す。
「えっ……」
 入ってきた方を振り返りながら、隣で審神者が声をもらす。その視線を追うと入り口の上の壁に横長の掛け軸が飾られており、そこには「どちらかが羞恥心を感じなければ出られません」と美しい達筆で書かれている。
「これは……どうしたものかな」
 不測の事態に戸惑う長義に対して、審神者は珍しく冷静だった。
「……ここは私に任せてください」
 握ったこぶしで胸をとんと叩き、審神者は頼もしげに言う。
 そして徐に着ている服に両手をかけると、眉を少し寄せて目をぎゅっと瞑った。
「え、ちょ、待てっ。きみ何をしようとしているんだ」
 目を剥いて長義は静止の声をあげる。審神者は服をまくりあげようとした。白い腹が少し見える。その瞬間、室内に聞き覚えのある機械音が鳴り響いた。
「……開いたようですね」
 安堵の息をつき、服をもとに戻す。審神者はすぐに背を向けると、入ってきた戸を引いた。それは音も立てずにすっと開いた。
「すんなり出られてよかったです! ……はやく資材を持っていかないとですね」
 早口で言って部屋を出る。審神者の表情は見えなかったが、耳が赤く染まっているのが見えた。
 そんな審神者に続いて部屋を出る。もやもやした気持ちがわく。胸中は複雑だった。長義は審神者の後頭をじっと見つめた。
 彼女は他の男士と一緒でもあの行動をとったのだろうか。
 そう思うとなぜか腹立たしい思いがし、おもしろくないのだった。

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山姥切長義と審神者は『どちらかが羞恥心を感じないと出られない部屋』に入ってしまいました。
180分以内に実行してください。
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