「お、終わったぁ……!」
時の政府からの無茶振り任務が複数に、審神者研修各種、そして回ってくる山盛りの書類。やっとのことですべてを終えて、ふと壁にかけていたアナログなカレンダーを見ると日付のマスはばつ印だらけ、残りのマスは8月31日だけだった。
つまり、いつの間にか8月31日になっていた。
なんということだろう! 8月が終わるのである。明日からは9月なのだ。
超絶忙しかった夏。汗水たらし働いた猛暑の夏……。
(夏らしいこと、なんにもできなかったなあ。おやつにスイカを食べたくらいだなあ)
世の中の人々は海に行ったり、プールに行ったり、夏祭りに行ったり、旅行に行ったり、夏をエンジョイしているというのに、そんなことは何ひとつできないまま、8月が終わってしまう。
「あああぁぁ……!」
審神者は呻き声をあげながら、机の上に突っ伏した。極度の疲労で情緒が不安定なこともあり、おいおいと泣いた。
そんな審神者のもとにやってきたのは審神者の初期刀でありズッ友であり、大切な相棒の加州清光である。
「主ー! そろそろ休憩にしよ……」
障子からにこにこ笑顔をのぞかせた彼は、大粒の涙を流す審神者を見るとすぐに顔色を変えた。
「どうしたの主。何があったの。誰が何をした!?」
誰かに泣かされたと勘違いしている加州はものすごい剣幕で詰め寄る。
「違うの、加州。違うのよ」
「じゃあ何があったんだよ」
「夏が……夏が終わっちゃうの……!」
顔をあげた審神者は滂沱のごとく涙を流しながら、力なくカレンダーを指差した。
「今年、仕事ばかりで私、夏っぽいことなんにもしてない! 加州ともどこにも出かけてない!」
一息で言い切り、うわーんと嘆き声をあげる。
「……忙しくて気づかなかったけど、そういえば俺、今年あんまり主と過ごしてない……」
肩を落として、加州もしょんぼりする。しまいには審神者の涙につられるように泣き始めた。
ふたりで揃ってわんわん泣いていると、どんよりと湿った室内に竹を割ったようなさっぱりした声が響く。
「一体全体、主も加州もなんで泣いてんだ?」
みんな心配してるぜ、と遠慮なく障子を開けて顔を見せたのは、夏がよく似合う太鼓鐘貞宗だった。
「貞ちゃん……!」
頼れる初鍛刀の登場に、審神者は涙目でつい先程気づいたばかりの驚愕の事実を話した。加州も一緒になって悲しい現実を語る。話を聞いた太鼓鐘は必死なふたりとは反対に呆れた顔をし、「なんだよ、そんなことか」と素っ気なく感想を口にした。
「そんなことか、ってなんだよ」
加州が落胆しながら呟くと、太鼓鐘は「だってさ」と不思議そうに答える。
「夏が終わっちゃうのが嫌ならさ、しばらくは夏の景趣を続ければいいんじゃねえの」
「「それだー!!」」
審神者と加州はお互いの両手を合わせ、途端にはしゃぎ始める。
「主、主! この前の任務で手に入れた景趣で浜遊びしよう!」
「いいねいいね!」
「ド派手に花火も打ち上げようぜ!」
「いいねいいね!」
「浴衣も着よう! 刀も増えてきたし、縁日もどきも出来るんじゃない?」
「いいねいいね! やろうやろう!」
加州と太鼓鐘の口から次々あがる提案に、先程までの泣き顔はどこへやら、審神者は嬉しそうな笑顔で頷く。
やりたいことは、やりたかったことは山ほどある。
「少し遅い夏休みだね、主!」
「働いた分、楽しもうぜ!」
「うん!」
本丸の夏はまだまだこれからだ!
2021/09/03
目次に戻る