足りない - 2/5

【おまけ1 翌日の夜の話】

 審神者の私室にはぽうっと灯りがついている。その部屋の前で山姥切は深呼吸をして、中に入った。
 彼女はすでに着替えを済ませていた。風呂上がりなのか、髪を下ろしている。薄手の黒いカーディガンを羽織っていた。
「こんばんは、山姥切くん」
 審神者はいつも通りの様子だった。山姥切は、ああ、と短く返事をすると、布を引き下げ、視線を逸らした。
「……昨日はちゃんと眠れましたか? 二日酔いは大丈夫でしたか?」
 山姥切は首を縦に振った。
「……別に。問題ない」
 その言葉に彼女はほっとした表情を浮かべた。
 山姥切は審神者と向かい合うように座った。机の上には湯飲みがふたつ置いてある。中身は緑茶のようだった。彼女が一口飲むのを見て、山姥切もそれに倣う。
「今日はどんなことがありましたか?」
 審神者が尋ねると、山姥切は今日の出来事を話し始めた。
 畑当番であったこと。馬小屋でのこと。昼飯のこと。出陣先で見たこと……。審神者は静かに相槌を打ちながら聞いていた。
 話が一段落つくと、山姥切はじっと審神者を見つめた。言いたいことを察しているのか、彼女は穏やかな顔で言葉を待っている。
 山姥切は意を決した様子で口を開いた。
「……主」
「はい」
「今度の非番の日に、あんたを俺の部屋に招きたいんだが」
 審神者は少し驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になった。
「もちろんです。楽しみにしていますね」
 山姥切は、ああ、と小さく返事をした。