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2024年11月18日(月) 11:18:56〔1年以上前〕 更新
■2023年6月[19件](2ページ目) ( 19 件 )
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2023/06/12 (Mon)
21:43:36
No.8
by
みやこ
〔2年以上前〕
審神者が鏡の前で何やら粧しこんでいる。普段は最低限のメイクしかしていない彼女だが、今日は違う。アイシャドウにリップ、チーク、マスカラ、ファンデーション、口紅などなど。とにかくいろいろ塗ったり引いたり重ねたりして、顔を作っている。
いつになく浮かれた様子でその表情はどこか楽しげだ。いったい誰のためにこんなことをしているのか。
「主、どこかに出かけるのか?」
鏡越しに尋ねれば、彼女は「ええ、ちょっと」と言葉を濁した。
「言えない場所なのか? 護衛は?」
「えっとその……推しに会いに行きます。前田くんが一緒です」
そう言って、鏡の中の審神者が微笑む。
俺の知らない顔だった。「そ、そうか」動揺を隠すようにそう返せば、審神者は「はい」と嬉しそうな顔をする。
「それじゃあ行ってきますね」
「ああ」
うまく笑えただろうか。山姥切は審神者の背中を見送ってからそっと息を吐いた。そして、考える。推しってなんなのだ、と。
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2023/06/12 (Mon)
21:42:19
No.7
by
みやこ
〔2年以上前〕
主の口から零れ落ちる言葉はすべて自分を卑下するものだった。
霊力は低いし、才能もない。ただ真面目であることだけしか取りえがない、つまらない人間だ、と彼女は言った。俺が何を言ってもその言葉を撤回することはなく、いくら否定しても、彼女は自分自身を肯定しなかった。これでは以前とはまるで逆の立ち位置じゃないか。俺が修行に出る前、主はいつも俺のことをよく褒め、俺の言葉に喜んでくれたというのに。
「……もう何も言うな」
「でも、私はあなたが言うような立派な主では、」
「黙ってくれ」
彼女が最後まで言い切る前に、俺は彼女の口を自分の口で重ねて塞いだ。そのまま深く重ね、彼女の口腔内に舌を差し入れる。彼女の肩がぴくりと震えた。逃げようとする彼女の頭を片手で押さえつけ、さらに奥へと進める。彼女の吐息ごと呑み込むように、彼女のすべてを奪うように、彼女のすべてを貪った。
「自分で自分を貶めるのはやめてくれ。……以前、主が俺にそう言ったんだぞ」
それなのに、どうしてあんたが自分を否定するんだ。主の髪を撫ぜながら言うと、彼女は目を伏せて、ごめんなさい、と言ったきり黙り込むのだった。
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2023/06/12 (Mon)
21:40:12
No.6
by
みやこ
〔2年以上前〕
暑い夏の日だった。
その日は朝から気温が高く本丸の庭に植えられている木々からは蝉の鳴き声が響いていた。山姥切国広は額に浮かんだ汗を拭いながら、早歩きで廊下を歩いていく。厨番から審神者へのおやつに、アイスクリームを預かって来たのだ。ガラスの器にころんと載せられたアイスは冷たくて美味しいに違いない。早く届けてやろう。そんなことを考えながら執務室へ足を向ける。
「おい、主。入るぞ」
返事を待たずに障子を開けた。室内から生温い空気が流れてくる。どうやら冷房が入っていないらしい。山姥切は顔をしかめ、柱に取り付けられたリモコンを操作をした。途端に涼しげな風が吹いてきて火照った体を冷やしていく。
「まったく、冷房ぐらいつけろ」
呆れながら声をかければ、端末画面とにらめっこをしていた審神者は気まずそうに苦笑いをして、「あはは、すみません」と謝ってきた。山姥切はため息をつく。きっと自分一人しかいない部屋で冷房をつけるのはもったいない、などと理由をつけて使わなかったのだろう。
「熱中症にでもなったらどうするつもりだ」
「さすがにそうなる前に冷房を入れますよ」
「……どうだか」
この人は我慢強いので、性もないところで無理をしかねない。山姥切は机の上にアイスを置き、審神者に食べるように勧めた。
「ありがとうございます。暑い日にアイスは嬉しいですね」
そう言って、目を細めてスプーンを口に運ぶ審神者の姿をじっと観察する。体調は崩していないようだがやはり少し暑そうだ。せめて上着だけでも脱いだ方がいいかもしれない。ほんのり赤く色づいた頬、こめかみを流れる一筋の雫――、山姥切はごくりと唾を飲み込む。
「山姥切くん?」
不思議そうに見つめられて山姥切は我に返った。それから慌てて視線を外す。今自分が何を考えていたのか気づき、動揺する。
「あっ……、私だけアイスを食べてるのは申し訳ないですね。よかったらどうぞ」
差し出された器にはまだ半分以上中身が残っていた。受け取ってはみたものの山姥切にはそれを味わうことはできなかった。食べたくないわけではない。ただそれどころではなかっただけだ。山姥切は再び審神者をそっと盗み見た。白い肌に浮かぶ赤みが妙に艶やかに見えて仕方がない。湧き上がってきた煩悩を振り払うために山姥切はぶんと首を振った。
(だめだ。これ以上は)
このままでは審神者に対して良くない感情を抱いてしまう気がする。だからといって彼女から離れてしまうのもそれはそれで嫌だった。山姥切は自分の心がよく分からなくなって頭を抱えた。器の中のアイスクリームはどんどん溶けて形を失ってゆく。
「……山姥切くん? 大丈夫ですか? なんだか顔が赤いような……」
心配そうに覗き込まれ、山姥切は自分の顔がさらに赤く染まっただろうことを実感した。もう耐えられなかった。山姥切は無言で審神者の手を掴んで引き寄せると、彼女の唇を奪った。ほんのり甘い。バニラの味だ。一瞬感じた甘さに思考を奪われたが、すぐに唇を離した。審神者の顔を見ることができず、かといって手を放すこともできずに俯いていると小さな手が優しく山姥切の頭を撫でた。
(……このまま溶けてしまいそうだ)
ガラスの器の中に入ったままのアイスのように。
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2023/06/12 (Mon)
21:38:59
No.5
by
みやこ
〔2年以上前〕
彼女は俺だけのものだ。他の誰にも渡さない。俺以外の奴に笑いかけないでくれ。俺だけをずっと見ていて欲しい。
そんな醜く傲慢で浅ましい感情が自分の中にあるなんて思いもしなかった。でもこれが本当の俺の姿なのだ。主を独り占めしたい。主を独占したい。主が愛しているのは俺だけでいい。そんなことを考えてしまう。
(どうかしている)
こんな気持ち、知られてはいけない。知られるわけにはいかない。だってこんな汚い欲望を主に向けているだなんて知られたら、嫌われてしまう。それだけは嫌だ。絶対に、それだけは。
ぎゅうと拳を握りしめる。掌に爪が食い込んで血が滲んでいた。痛みが理性を呼び覚ましてくれる。この感情を彼女に悟られる前に何とかしなければ。
「……山姥切くん?」
ふと名前を呼ばれて我に返った。振り返ると主が心配そうにこちらを見ている。しまった。またやってしまった。
慌てて取り繕おうとするが上手く言葉が出てこない。そんな俺の様子を見て、何かを悟ったのか彼女が小さく息を吐いた。そしてそっと俺の手を掴んで持ち上げる。傷口をまじまじと見つめた後、彼女は絆創膏を取り出した。
「あまり強く握りしめると痛めてしまいますよ。ほら、血が……!」
慌てる彼女をよそに、俺はぼんやりと彼女の手の動きを目で追っていた。丁寧な手つきで丁寧に貼ってくれている。まるで割れ物を扱うかのような優しい動きだ。
「はい、できました」
そう言って微笑むと主は俺の手を解放した。だが、名残惜しくてついその手を追いかけてしまった。咄嵯に自分の手を重ねて包み込むように握る。驚いたように目を丸くする彼女を見つめて小さく口を開いた。
「……すまない」
「いえいえ。気をつけてくださいね」
優しく諭すような声音に胸が締め付けられる。ああ駄目だ。離せない。そのままじっと手を重ね続けていると、ふふ、と笑う気配を感じた。顔を上げると、慈しむような眼差しで俺を見つめていた彼女と目が合う。どきりとした。頬に熱が集まる。思わず視線を外すと、彼女がくすくすとおかしそうに笑った。
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2023/06/12 (Mon)
21:37:29
No.4
by
みやこ
〔2年以上前〕
目が疲れたことを理由に机に突っ伏していたときのことだった。「主、いるかな?」という声とともに長義さんの足音と気配を感じ取る。彼が近付いてくるのを察しながらも、私は顔を上げずにいた。
最近どうにも気恥ずかしさが勝ってしまい彼の顔を直視できない。そのままの状態でいると、「寝ているのかな」と呟く彼。次いで頭上からくすっと笑う声がする。起きてるんだけどね。ただちょっとだけ顔を上げられないでいるだけだ。
少しすると今度は頭の上辺りに柔らかいものが触れる。それが何か分かってしまうくらいには触れ合いを重ねてしまったわけで。
彼はなかなか立ち去らない。それどころか、今度は私の耳に唇を寄せてきた。ちゅっと可愛らしいリップノイズが鳴る。思わずびくりとする私をよそに、彼の指先がつぅっと首筋をなぞった。ぞわぞわとして身体が反応してしまう。
「ねぇ、主。起きているんだろう? わかってるんだよ」
バレているなら狸寝入りしていても無駄なので観念することにした。ぱたりと顔を上げる。
見上げた先には彼の青い瞳があって――、吸い込まれてしまいそうなほど綺麗だった。その視線に射抜かれ、目が逸らせなくなる。
じっと見つめ合っていると、ゆっくりと距離を詰められ、気づいたときにはもう目の前いっぱいに端正な顔があった。吐息がかかりそうな距離感にどきりとする。咄嵯に身を引こうとしたけれどそれは叶わなかった。いつの間にか腰を抱き寄せられていて逃げることができない。そのままくいっと顎を持ち上げられると、唇が重なった。
啄むような口付けを何度か交わす。それから次第に深くなり舌先が入り込んできた。
口内を弄ぶかのように動き回るそれを、応えるように絡め合わせる。しばらくしてどちらからともなく口を離せば唾液の糸が伸び、ぷつりとそれ切れた。
「おはよう、主」
そう言って微笑みかけてくる彼に心臓がきゅっとなる。相変わらずこの美貌には弱いのだ。
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2023/06/12 (Mon)
21:25:58
No.3
by
みやこ
〔2年以上前〕
深い眠りに沈んでいた意識が徐々に浮上していく。まどろみながら隣にある温もりを引き寄せれば、腕の中に収まる彼女は小さく身じろぎした。さらりと頬にかかる髪を耳にかけてやるとむず痒かったのか身を捩る。だが、嫌だというわけではなく無意識のようだ。
閉じられた瞼を飾る長いまつ毛を眺めながら昨夜の出来事を思い出す。俺を求めてきた主はとてもかわいらしかった。俺もまた彼女を欲していて、互いに何度も求め合った。
こうして二人で迎える初めての朝の余韻に浸っているとふいに主が口を開いた。寝言だろうか。
「……ん、ちょうぎさん……」
確かにそう聞こえた。俺の夢でも見ているのだろうか? だとしたら、嬉しい。
彼女の言葉に応えるように優しく頭を撫でてやると、気持ちが良いのかすり寄ってくる。人懐っこい小動物みたいだと思いつつ、しばらくそうしているうちに再びすうすうと規則正しい呼吸音が聞こえてきた。
昨晩、彼女と共にした情事は想像以上に甘く心地の良いものだった。これまで経験してきたどの交わりよりも満ち足りたものを感じた。きっとこれは愛する人だからだろう。主のすべてが愛おしくて仕方がない。まだしばらくは目覚めないであろう主に口づけを落としてから、もう一度抱き寄せた。
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2023/06/12 (Mon)
21:21:01
No.2
by
みやこ
〔2年以上前〕
執務室に戻ると、机の上に花が置かれていた。空色のラッピングペーパーと透明なセロハンに白い薔薇が一本包まれていて、紺色のサテンリボンがかけられている。
誰かからの贈り物だろうか。手にとって眺めてみるが、差出人がわかるものはなにも書かれていない。
包装紙を破らないよう慎重に剥がすと、中からはらりと一枚のメッセージカードが落ちてきた。そこには走り書きのような字でこう書かれていた。
――この花はあなたのために咲いた。
送り主に思い当たる節はなかったが、美しい薔薇がそのまま枯れてしまうのは忍びなく、ひとまず活けてみることにした。使われずに仕舞いっぱなしだった一輪挿しに水を張って、そこにそっと差し込む。
贈り主の意図はよくわからないが、きっと意味はあるはずだ。ならば、その意味を考えてみたい。審神者は端末に向かいながら、薔薇に視線を落とした。畳む
そこに座ってくれと言われたので、審神者は彼の言うとおり、黙って用意された座布団の上に正座していた。目の前にはかしこまった様子で座す山姥切がいる。彼の顔は真剣そのもの。審神者は思わず背筋を伸ばした。いったい何を言われるのか。太ももに置いた手のひらが緊張で汗ばんでいた。
「……俺とあんたが恋仲になって、もうひと月になる。だから……その……これくらいのことなら、してもいいのではと思ってだな……」
山姥切は腰を浮かした。伸びた指先がそっと審神者のあごを持ち上げる。まっすぐな瞳が向けられた。綺麗な碧色。吸い込まれてしまいそうだ、と思う。山姥切の顔がゆっくりと近づいてくる。目をそらせずにいると、やがて互いの鼻先がくっついた。
「……いいか?」
その問いかけに、こくりと首を縦に振った。目を閉じれば、彼の唇が自分のそれに重なる。柔らかい感触に心臓が大きく跳ねた。数秒ほど触れ合ってから彼は離れていった。
ドキドキとうるさい鼓動を鎮めようと胸を押さえる。これで終わりかな、そんなことを審神者が考えていると、山姥切は「まだ。もう少し」と再び顔を寄せてきた。
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